祐一の住む街で、郡山市から南に20kmほどのところにある都市。東は西白河郡柴橋町、西は西白河郡大信村・岩瀬郡天栄村、南は西白河郡大信村・西白河郡矢吹町、北は岩瀬郡天栄村・岩瀬郡豊崎町に接する。郡山市の衛星都市として機能している中堅都市で、田園地帯が多いが最近住宅地も増えている。律令制時代は陸奥国白河郡に属していた(ただし平安時代末から明治時代中頃までは東側が石川郡、西側が白河郡に属していた)。近世以降は天領で奥州街道の宿場町となり、中心北西部の陣屋町付近にその痕跡が残る。中心駅である国鉄東北本線の南森駅は2面4線の地平駅で、かつては平屋の普通の駅舎だったが、平成2年に再開発事業で駅ビル化、さらに中心部となる西口では駅前の整備が行われ、大規模なペデストリアンデッキやバスターミナルなどが造られている。
市内には南北に国道が通り、そのほとんどが旧奥州街道と重なるが、駅の前後、ものみの丘の近くくらいまで東側に並行して旧道が残っている。国道付近を阿武隈川の支流に当たる南森川が南北に貫流するほか、物見地区の南側をそのさらに支流である鏡川が流れ、橋場町で注いでいる。
国道が南北に走っているものの、市役所を含め行政機関の多くは旧道沿いの通町・雪見町界隈に集中しており、どちらかというとそちらの方が栄えている。
市内交通は、南森市交通局が南森駅前〜物見町〜尾根原(おねがはら)間の軌道線・南尾線と市内全域の乗合自動車を運行している。
・南森市交通局南尾線
南森駅前から南森市中心部と北部の物見地区を通って東北本線を渡り、市の北端・尾根原に至る軌道線[註1]。開業は大正5年2月11日で、地方の路面電車としては古株に入る(ただし公営化は昭和10年10月1日から)。電化方式は直流600V、軌間[註2]は1,067mm(3ft6in)。南森駅前〜物見町・山葉川橋〜尾根原間のみ併用軌道[註3]で、その他は全て専用軌道。また、南森駅前〜物見町間のみ複線で、その他は全て単線となっている。単線区間の閉塞法はスタフ閉塞[註4]で、物見町・寮荘・穎園の三ヶ所でスタフの交換を行っている。運転間隔は日中15分毎で、運賃は170〜250円。
路線と電停は次の通り。
南森駅前(みなもりえきまえ)−雪見町(ゆきみちょう)−札ノ辻(ふだのつじ)−陣屋町(じんやちょう)−見附(みつけ)−物見町(ものみまち)−真名井(まない)−近津道(ちかつみち)−寮荘(りょうしょう)−山葉川橋(やまはがわばし)−頴園(えいえん)−尾根本通(おねほんどおり)−尾根原(おねがはら)
「雪見町」は商店街の中央で、電停前に百花屋がある。祐一たちが学校帰りなどによく行くのはここから北に少し入ったところである。「札ノ辻」は天神町にある水瀬家の最寄り電停であるが、ルートが外れるためほとんど利用されない。「陣屋町」には南森総鎮守・千勝神社があるほか、「見附」にかけての沿線は古い町並みが見られる。「物見町」は物見地区の中心部で、東に少し入るとものみの丘の入口があるほか、交通局の本局、そして自動車営業所と車庫がある。「真名井」はものみの丘の北東部に当たる住宅街であるが、丘の近くは林に囲まれた物寂しい場所で、「真名井の清水」と呼ばれる湧水地があり、丘の下にある林の中が水場になっている。「寮荘」には電車営業所と車庫があり、この先で国鉄東北本線の下をくぐって東側に出る。「山葉川橋」から国道上を併用軌道で走り、「穎園」で狭隘な脇道に入り突き当たって終点となる。
車輌は昭和30年代製の古い釣掛駆動[註5]のものが主流。スタイルは都電6000形似で、塗装は緑にベージュのツートンカラー。集電装置はZパンタグラフ[註6]である。
《主題歌(イメージソング)》
「16歳」(1995年・1999年アルバム『同窓會』所収)
歌/村下孝蔵 作曲・作詞/村下孝蔵 編曲/武澤豊
(版権:ソニーミュージックエンターテイメント)
[コメント]
《舞台の設定》
・福島県南森市
「Kanon」の舞台については、雪の多さからして北海道や東北という説が主流ですが、いざどこかということになると駅や商店街がまったく現実と適合しないことから(駅は京阪電鉄の守口市駅、商店街は横浜のどこかから引っ張ってきたものなので当然なのですが)、いろいろなところで議論されているのを耳にします。
実は私もこのことについては、当初は「北国」ということから北海道を考えておりました。しかし、この「花ざかり」の原案を練るに際し詳細に検証をしたところ、1月8日に新学期が始まることや雪が降ってもメートル単位で積もるほどの豪雪ではないことから、どうしても北海道説や北東北説にはくみし難いと言わざるを得なくなりました(ちなみにこの積雪量についての設定さえなければ、自分の好きな北陸地方を舞台に持って来るという技も出来たのですが、これも日本海側で相当量の雪が降る地域であるため、残念ながら出すには至りませんでした)。
そこで、次に考えたのが福島県だったのです。実は以前、福島県はいわき市出身の後輩から「福島の中通りは寒いが雪はあまり降らない」と聞かされていたので、もしかすると先のような条件と適合することがあるのではないか、と考えてのことでした。それも積雪量を考えてなるべく南の方を、ということで、当初は磐越東線筋、郡山と磐梯熱海の間くらいを考えていました。しかし、やはりあのような大都市の成立する場所としては大動脈たる東北本線沿いが現実的だろうということで、現在のように東北本線沿いに変更したのです。
また最終的な位置については、現実の街との兼ね合いがあって少し悩んだのですが、やはり入れても市が連続したりして混み合わないようなところを、ということで、黒磯と郡山の中間あたりを考えてみました。具体的に言えば矢吹と鏡石の間くらいです。まあ、ここにしてもあまり現実の風景とは合わないのですが、位置的にも白河市と須賀川・郡山市の中間で市のない地帯であったため、東北本線説が浮上した時点でもし入れるならここだろう、と目星をつけていたのです。そうしたら、たまたまどこかのページでこの辺が適当だろう、というかなり詳細で充分に納得出来るような分析をしているのを見つけて思わぬ確信を得ることとなりましたため、本決まりとなりました。そういう意味ではあまり深い意味はないかも知れません。
市名の「南森」は、お察しがつくようにKeyの本社がある大阪の南森町からとりました。ちなみに北隣が「豊崎町」ですが、これは「Kanon」とよく並べて考えられる「ONE」を作ったTacticsを初めとして大阪に本社を置くソフトハウスの多くが居を構える天神橋界隈の古地名「豊崎」からとっております。
中心部の具体的な地理については、地図の通りなんですが……これは作るのに苦労しました。そもそも街などというものは、数百年の歴史の積み重ねがあって成り立っているものなので、それを一から作ろうなどというのはどだいおこがましい所業です。そのため、何度作っても満足が行かず、結局モデルを取り入れました。とりあえず、私の身の周りで一番イメージに近かった栃木県足利市がモデルになっています。実際、市街地の上の方にぽっこりと「ものみの丘」を思わせるような丘があったりしますので。
ちなみに、「天領」としたのは本編中で「城跡」の類が出てこなかったのに合わせてのことです。一般的に小さな城下町などでは街中に城跡が残っていてかなり目立つほか、地元としても観光客誘致のネタにして宣伝していることが多いので、あれば少しくらいは触れられることもあろうかと思われたからです。もっとも、八王子や備中高梁のように、山城だったという考え方も成り立ちますが。
・南森市交通局南尾線
今回これを書くにあたり、自分の趣味を思い切って取り入れてみました。それがこれです。
要は路面電車です。私は鉄道が好きなので、当初から考えてはいました。ただ、現実的にみて東北地方の路面電車は全てなくなってしまっていることを考えると、維持できるか、という疑問もあったため、とりあえずは乗合自動車案でやることにしました。でも、やっぱりやりたい、と無理を承知で路面電車に変えてしまったわけです。
運営主体としては現実的に一番多い民営、としていたんですが、結構各地に小さな交通局が多いという事実を知ったので、最後の最後で公営にしてみました。地方の県庁所在地でもない中堅都市で、しかも公営で果たして路面電車が維持出来るかという問題は残りますが……まあ、ここまでやってしまったのだからもういいでしょう。
路線の具体的なモデルというのはないです。いかにも地方らしい、ひなびた古い感じの郊外型路面電車を思い浮かべてくだされば大体いいでしょう。
ちなみに、電停名が一部遊んでます。「寮荘」「頴園」「尾根原」……「Kanon」と「ONE」をご存じの方ならば、すべて元のネタは明らかですね(笑)。
《主題歌(イメージソング)》
「Kanon」には既に「Last regrets」「風の辿り着く場所」という立派な主題歌があるんですが、ここでは設定を思い切り趣味に走らせた関係で、これも趣味に走らせていただきました。これにはさすがに「やっていいものか」とかなりためらったのですが、頭の中にはこのイメージで出来上がっているので、やらしていただきました。
この「16才」という歌は……おそらく、誰も知らないと思います。大体にして、村下孝蔵さんという歌手を今どれだけの人が知っているのか、という問題もありますし。
そんな人の歌を使おう、というのも結局は私がファンだからで、たまたま私のイメージに合う曲があったからです。ただ、私としては本編の文章や音楽で強調されていた幻想的な部分よりも、登場人物たちの人間としてのひたむきな生き方、という部分を強調したかったので、かなり本来の主題歌とは離れた、ある意味激しい曲を選びました。あと、今回の主人公たる真琴やその他の面々が、ちょうど「16才」に近い年齢だということも考えて。
ちなみに、プロの歌手の方の歌なので、CDも出ております。シングルとアルバムがあるんですが、シングルの方はもう見つからないと思うので(マイナーなのでレンタル屋にもきっと入ってないでしょう)、アルバムの方が手っ取り早いかと思います。「同窓會」という名の、残念ながら村下さんの追悼アルバムとなってしまったアルバムの13曲目に入っています(SRCL4589)。
あまりの大胆なイメージの転換に、聞いて何だこれ、と言われてしまわないかと正直言って怖いですが……。
[用語解説]
[註1]軌道線
軌道法の管理下で敷設される鉄道の一種で、俗に言う「路面電車」のこと。法律的には鉄道の簡易版、という扱いをされており、基本的に路面に敷設し(軌道法第2条「軌道ハ特別ノ事由アル場合ヲ除クノ外之ヲ道路ニ敷設スヘシ」。ただ、実態としては専用軌道も認められている)、道路交通法・軌道運転規則などの専用の法令を遵守して走行することを義務づけられている。
[註2]軌間
レールの幅のこと。鉄道がイギリスから入ってきた関係でフィート・インチを単位に用いる。さまざまなものがあるが、このうち軌道で使用できる軌間は2フィート6インチ(762mm)、3フィート6インチ(1067mm)、4フィート81/2インチ(1435mm・世界標準軌)である(東京都交通局は4フィート6インチ=1372mmであるが、これは法令が出来る前に採用されたので特例として存置されている)。もっとも一般的なのがやはり後ろの2つで、一番最初は現在軌道線では存在しない。
[註3]併用軌道
軌道線において、路面を走行する部分。自動車・歩行者と道路を「併用」することからこの名称がある。この区間では、全ての列車は道路交通法を遵守して運行する義務がある。なお、これの反対が「専用軌道」で、普通に専用の用地を使って敷設された線路を指す。
[註4]スタフ閉塞
鉄道・軌道の閉塞法の一つ。単線の路線では線路が一本である関係上、場所を決めて定期的に上下列車の交換を行う必要があるが、そのためには、交換を行う駅と駅の間の区間(閉塞区間)には必ず一つの列車のみが走行しているようにしなければならない。閉塞法とはそれを制禦するためのシステムのことで、そのうちスタフ閉塞とは「スタフ」と呼ばれる通行票を用いて交換の際に列車間で交換し、一つの閉塞区間には一つの決められたスタフを持つ列車のみが走っているようにするものである。スタフの形状は、小さな革のケースの上に鍋づる形の金属の持ち手がついたもので、ケースの中に入った「通票」は混同を避けるため区間ごとに違っている(なお昔は革のケースではなく、先に金属板をつけた棒状のスタフが主流だったが、現在では名古屋鉄道築港線と津軽鉄道以外では使われていない)。形が似ているためにタブレット閉塞と混同されることが多いが、タブレット閉塞ではケースの中身の「タブレット」を「通票閉塞機」と呼ばれる機械から駅同士で連絡し合った上取り出し、確実に到着した時点でまた連絡し合って閉塞機に収めるという厳密な方法が採られるのに対し、スタフはあくまで乗務員同士の確認のためのものでしかなく単純であるという違いがある。
[註5]釣掛駆動
電車の駆動方式の一種。電動機から大歯車をもって車軸を直接回す。もっとも単純な駆動方式のため長く使われてきたが、電動機を大きくしなければいけなかったり、構造上車軸の上に電動機が乗りかかるため車軸の寿命が縮まったり、振動が台枠(シャシ)や車体に伝わりやすく乗り心地が悪いなどの欠点がある。昭和30年代以降、電動機を車軸と触れないように平行または直角に置き、途中に特殊な継手を入れて駆動するカルダン駆動が開発されたことで使われなくなった。このため、この方式は古い電車の代名詞になりつつある。なお、国鉄では釣掛駆動の電車を「旧性能電車」、それ以降の駆動法の電車を「新性能電車」と呼び慣わしている。
[註6]Zパンタグラフ
集電装置の一種。ビューゲル(昔の路面電車に多かったきのこ型の鉄枠を使った集電装置)をZ型に折り畳んだような形をしていることからこの名がある。昭和50年代以降、ビューゲルに代わって使用が多くなった。ただし普通のパンタグラフに移行する場合もあり(東京都交通局・名古屋鉄道美濃町線・阪堺電気軌道・京阪鉄道石山坂本線など)、場所によっては見られないこともある。
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