美濃町線の「伝説」
(2000年4月1日現在 その5)
《その6》
日常的に続行運転がある
「路線図」や「電停めぐり」でも述べた通り、美濃町線は競輪場前で田神線を分岐し、徹明町と新岐阜の2つのターミナルを持っています。このため、美濃町線には徹明町〜日野橋間と新岐阜〜関間の2通りの運行系統があるということもお話しました。
こういう風に一方の路線だけが短距離運転に使われている場合、当然ながら両系統の相互乗り換えがスムーズに行くようにしておかなければなりません。そのために美濃町線で行われているのが、電車の「続行運転」です。
「続行運転」とはその名の通り、同じ線路上を2両以上の電車が連続して走ることで、美濃町線の場合は2回に1回、徹明町〜日野橋間の電車と新岐阜〜関間の電車が続行します。
ここでは、その過程について写真つきで説明しようと思います。
まず、下りからです。それぞれの方向からやってきた電車は、競輪場前の電停ではそれぞれ所定の位置に停まります。「電停めぐり」でもありましたが、徹明町方面は交叉点の西側、新岐阜方面は交叉点の南側にあります。
ここで交換を行った後、電車は交叉点内の分岐点に突入し、いよいよ続行運転となります。
ただし、この際、続行する順番がきちんと決められています。
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続行運転で先行する関行のモ600形 |
関行に続く日野橋行のモ593 |
上のように、必ず続行の際は先に新岐阜〜関間の電車が入り、あとで徹明町〜日野橋間の電車が入って行きます。これは、要するに徹明町方面からの電車が日野橋で折り返しやすくするための処置で、この順番は絶対です。ただし、後述する「車輛交換運用」の場合は別になります。
また、前の電車は続行標をつけて走っていますが、赤色の輪の中を黄色に塗りつぶした目立つデザインなので、すぐにわかります。
続行に入った後、2両の電車は数10メートルほどの間隔を置いて走って行きます。すぐ前を別の電車が走っているというのはあまりない光景で、後ろから見ているとなかなか不思議な感じです。ただ、軌道状態が余りよくないせいか、よく大きく尻を振りながら走っていますが(笑)。
そうこうしているうちに、北一色の電停を通過し、専用軌道に入って野一色に到着します。
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野一色電停の下り続行電車 |
ここで、徹明町方面から日野橋以遠に行く乗客が、後ろの徹明町〜日野橋間の電車から前の新岐阜〜関間の電車に乗り換えます。本当は競輪場前〜日野橋間の全電停での乗り換えが認められているのですが、野一色以外はお世辞にも乗り換えるのに向いている電停とは言い難いため、車内放送でもここで乗り換えるように案内をしているのが実情です。
なお、ここで対向電車と交換しますが、この際の対向電車はかならず関〜新岐阜間の電車が単行でやって来ます。
2分間の停車時間の間に乗客の移動を終え、再び発車した電車は琴塚電停を通過し、続行運転が終わる日野橋へと到着します。
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日野橋電停の続行電車 |
ここで2両の電車は間に構内踏切をはさんで停車し、対向電車を待ちます。この間、前の新岐阜〜関間の電車は続行標を外し、後ろの徹明町〜日野橋間の電車は方向幕を「徹明町」に反転して折り返しの準備を整えます。
この後、対向電車が入ってきたところで前の電車は単行となって発車して行きます。
次は上りです。上りの続行運転は、下りの続行運転で到着した後ろの電車が徹明町行となって折り返して行くところから始まります。
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続行運転で先に行く徹明町行のモ593 |
徹明町行を追う新岐阜行のモ600形 |
上りは下りと反対になり、日野橋〜徹明町間の電車の後を関〜新岐阜間の電車が追って行きます。
そして、野一色で下り同様、関方面から徹明町方面へ向かう乗客が前から後ろへと乗り換えを行います。この際も対向電車を待ちますが、相手は下り同様新岐阜〜関間の電車となります。
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野一色電停の上り続行電車 |
この後、電車は続行で競輪場前電停の手前の交叉点まで進み、そこから二手に分かれますが、その振り分けを行う転轍機に少しポイントがあります。
ここの転轍機は徹明町方面が正位(普段開いている方向)、新岐阜方面が反位で、切り替えは自動で行われます。軌道にスイッチが2つつけてあり、上りの場合、電車が2つ連続してスイッチを踏めば正位のまま、手前の1つだけを踏めば反位に開くようになっているのです(下りの場合はその都度感知しているようです)。
このため、先に入る日野橋〜徹明町間の電車はそのまま直進し、後に入る関〜新岐阜間の電車は一旦停車し、反位に開くのを待ってから入って行きます。
こうして続行を解消した後、それぞれの定位置で交換を済ませて発車して行きます。
いかがだったでしょうか。これが美濃町線の運用の中で一番特徴的な続行運転の過程です。
ただ、この続行運転には一部例外があります。一部の電車で、市ノ坪からの出庫を兼ねて変則的な続行運転が行われるのです。
その中でも圧巻は、やはり平日の下りの始発で行われる3両続行ではないでしょうか。この運用では、徹明町発野一色行(徹明町6時1分発)、新岐阜発下芥見行(新岐阜6時発)、市ノ坪発関行(市ノ坪6時4分発)の3両の電車が競輪場前〜野一色間で重なるのです。競輪場前発が6時9分、野一色着が6時16分ですからわずか7分ほどの間なのですが、2両でも珍しい続行運転が3両になるのですからすごい話です。もっとも、この3両続行の状態で全部停まれてしまう野一色のホームもすごいですが(笑)。
この他にも、変則的な続行運転としては、平日下りの徹明町発関行(徹明町6時36分発)と市ノ坪発白金行(市ノ坪6時40分発)の続行、平日上りの新関発新岐阜行と新関発徹明町行(共に新関6時7分発)の続行、土休日下りの新岐阜発関行(新岐阜6時50分発)と徹明町発新関行(徹明町6時50分発)の続行があります。
なお、続行運転ではありませんが、上りの新岐阜行のうち1本に市ノ坪で乗換えとなるものがあります(平日14時16分新関発・土休日新関発15時16分)。
《その7》
スジ通りに走らない「車輛交換運用」の存在
さて、上の続行運転と関連して、美濃町線にはもう1つ興味深い運用形態があります。それが、この「車輛交換運用」なる運用です。
これは1999年3月31日に新関〜美濃間が廃止された際のダイヤ改正で導入された運用で、言葉だけだとよく分かりませんが、端的に言ってしまえば上の続行運転での2両の電車の前後関係をひっくり返した運用のことです。
ただし、単に電車の前後関係をひっくり返しただけではありません。何と、電車自体の行き先が日野橋で入れ替わってしまうのです。つまり、新岐阜発関行だったものが日野橋止まりに、徹明町発日野橋行だったものが関行に化けてしまうわけです。実際、車内放送でも「この電車、これまで関行で参りましたが、野一色より日野橋止まりに行き先を変えさせていただきます」などと入ります。
さらに、この運用でややこしいのが、時刻表でのスジ(時刻)にこれが反映されていないということでしょう。実は、現地の時刻表には「日野橋で車両交換」などときちんと書かれているのですが、「名鉄時刻表」で見てみると、そのようなことは一切書いてありません。スジ自体も、今まで通り新岐阜発は関方面へ、徹明町発は日野橋へ、となっていて、切れている様子は見られません。どうやらこれが正式なスジのようなのです。
そのせいか、行き先表示も日野橋までは時刻表通りですし、駅の発車表示も時刻表通りです。そして何よりも、構内時刻表が時刻表通りの行き先を書き、「車両交換」とわざわざ書いてあるのです。
ただし、これが乗客の混乱を招いたらしく、一時期行き先表示だけ実際の行き先に合わせていました。でも、私が2000年の6月に行った時は、時刻表通りでした。やはりこれだと時刻表と食い違ってしまうので、のちに元に戻したのでしょう。
何でこんな奇妙な運用が生まれたか、ということを考えると、やはり思い当たるのは一つしかありません。新関〜美濃間廃止で専属車としての仕事をお役御免となり、全線復帰を果たしたモ590形の存在です。新関〜美濃間ありし頃は日中新関以南に入ってこなかった車両が入ったことで、美濃町線全線で車両が多くなり、だぶついたことは想像に難くありません。そこで、そのだぶついた車両を回すために考え出されたのが、この世にも奇妙な「車両交換運用」だったのではないか……と思います。
しかし、末端区間を切られてもなお、新たなる「伝説」を生み出すとは……。恐るべし、美濃町線(笑)。
なお、「車両交換運用」の行われる電車の時刻については、私が2000年の6月に行った際に調べてきたものがあるので、ご参考までにそれを書かせていただきます。
[平日下り]
新岐阜発関方面 916(新関行),1023(関行),1153(新関行),1253(新関行)
徹明町発日野橋方面 920,1022,1152,1252(いずれも日野橋行)
[平日上り]
関発新岐阜方面 913,1140(いずれも新岐阜行)
新関発新岐阜方面 916,1016,1146,1246,1416(いずれも新岐阜行)
日野橋発徹明町方面 946,1046,1216,1316,1446(いずれも徹明町行)
[土休日下り]
新岐阜発関方面 720(関行),853(新関行),953(新関行),1053(新関行),1223(関行),1253(新関行)
徹明町発日野橋方面 720,852,952,1052,1222,1252(いずれも日野橋行)
[土休日上り]
関発新岐阜方面 840,1340(いずれも新岐阜行)
新関発新岐阜方面 846,946,1046,1216,1346,1516(いずれも新岐阜行)
日野橋発徹明町方面 916,1016,1116,1246,1416,1546(いずれも徹明町行)
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