美濃町線の「伝説」
(2000年9月17日現在 その4)
《その4》
スタフ閉塞が行われている
ツーマン運用に続き、美濃町線で時代を超越したものの1つがスタフ閉塞の存在です。
スタフ閉塞とは、美濃町線のような単線の路線で車両交換の際に使われる方式で、閉塞(交換設備と交換設備の間の区間)内に入るにあたり、対向する電車同士で通票を交換するものです。要するに、単線上でぶつからないようにするために、一つの閉塞に入るときは必ず対応する通票を持つ決まりになっているわけです。
この方式は本来鉄道のもので、早くから自動閉塞化の進んだ軌道ではあまり見られません。しかも、現在本家の鉄道の方でも自動閉塞化が進んでいるような状態ですから、これがつい最近まで全線で行われていた軌道線、などというのはかなり珍しい部類に入ると言えましょう。
ここで使われている「通票」はΩ形の金属の持ち手に革のケースのついたもので、いわゆる「タブレット」の形をしています。そのため「タブレット」と言われていることも多いのですが、厳密には「タブレット」はタブレット閉塞で使うもので、これとは違います。タブレット閉塞はタブレットと呼ばれる砲金製の玉を交換し、これを機械に通してポイント操作をするものですが、スタフ閉塞は単純に閉塞区間を書いた紙を入れて交換するだけです。つまりポイント操作自体は自動化されているわけで、スタフはあくまで運転手同士の確認用として機能しているわけです。
美濃町線の閉塞区間はそれぞれ梅林〜競輪場前、市ノ坪〜競輪場前、競輪場前〜野一色、野一色〜日野橋、日野橋〜下芥見、下芥見〜白金、白金〜赤土坂、赤土坂〜新関、新関〜神光寺、神光寺〜美濃で、それぞれ丸・三角・四角を交互に用いていました(ただし、梅林〜競輪場前・市ノ坪〜競輪場前は同じ)。
このスタフの形は、線路端にその形をした標識で表示されていました。これは路面電停の場合でも同じです。
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競輪場前電停の閉塞標識 |
下芥見電停にある閉塞標識 |
通票交換は、大抵の場合電車を構内踏切をはさんで停めて、運転手同士で行います。路面電停の場合は専用の職員が常駐し、交換の手伝いをしていました。
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通票交換のために降りる運転手さん |
新関行の電車と通票交換 |
見ての通り、運転手さんが自ら降りて行って通票を交換しています。この作業、一見面倒くさそうですが運転手さんにはいい気晴らしになるらしく、世間話をしながら交換する光景もよく見られました。特に右の写真なんか、微笑ましいですね。
また白金では、対向する電車の運転室が隣り合うため、降りずに窓から窓へ手渡しで交換する光景が見られます。
こんな味のある美濃町線のスタフ閉塞でしたが、やはりツーマン運用と同じく近代化の波に押され、1999年の暮れから下芥見〜関間に短縮されてしまいました。
現在、下芥見以南は自動閉塞化され、出発信号機がつけられています。
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下芥見電停の出発信号機 |
競輪場前電停の出発信号機 |
この僅かに残ったスタフ閉塞も、ワンマン化と時を同じくしてなくなる可能性があったのですが、ワンマン化後もなくならずにどうにか残っています。
このため、新型車両の800形も下芥見より先ではスタフを持って走っており、途中の交換駅ではスタフを交換する光景も見られます。
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800形とモ870形の通票交換 |
……考えようによっては妙な光景です。新進気鋭の低床車がスタフ交換ですからね。まあ、運行上仕方のないことなんですが、やはりすごい光景と言わざるを得ません。
これから先、どこまでこれが続くかは分かりませんが、ワンマン化という大きな変化を受けてもなくならなかったことを考えると、まあしばらくの間は大丈夫だとは思います。
Copyright(C) Masaki Tomasawa.